総合臨床医学教室

企業勤務の医師はうつ病の患者増加で産業医と臨床医の役割が求められる

精神科の専門医

産業医が勤める多くの事業者において近年、うつ病の症状を訴える患者が増えており、職場の上司との交渉、本人との面談、投薬治療、専門医への紹介、職場復帰への調整、復帰後の支援などを経験することにあります。このような経過は早くても半年、長くなると2年間にわたって続くことになります。

最初の段階では産業医としてかかわり、続いて臨床医として接し、専門医に紹介する時点では再度産業医の立場をとり、その後は都合によって両者の立場を使い分けることになります。

患者は職場で顔なじみの産業医のところに初期段階で治療目的に受診します。

比較的早期から治療が奏功し通院の継続を希望しましたが、休職が1ヶ月を超えた段階より職場から、あるいは本社の産業医から専門医の受診と診断書の提出を指示されました。この時点で、専門医の窮状を日頃の医師会の活動の中で、勉強会などを通じて見聞きしている立場からは、紹介状を書いておしまいというわけにはいきません。

多くの専門医が多忙を極めるなか、診てもらうためには、紹介状も簡潔かつ遺漏なきよう気を配り、受信当日の予約状況や受診すべき時間を確認するように説明しておきます。保健情報を事前に提供してカルテ作成をしておき、少しでもスムーズな診療に繋がるように努めます。

また週1回は面談を実施し事情を把握するように努め、患者と専門医の関係が良好に推移するようにします。時にはカウンセリングのようなことをしたり、患者の訴えに耳を傾け、「不眠が強いようなら、次回専門医に遠慮なく話してください」「眠気が強いのは病気のためですから、薬を自己判断で調節しないほうがよい」などと、専門医の邪魔をしないようにしながら、少しでも手助けになれるようにします。

こうした際に役立つのが、(財)産業医学振興財団が作成した面接指導チェックリスト(URLからダウンロード可能)です。職場の上司あるいは担当者の情報から始まり、専門医に紹介する際にも整理しやすく、長い経過を追って複数の関係者に客観的に事態を把握してもらい、産業医が調整役を行うときに、こういった書式があれば便利です。メンタルヘルス、過重労働といった不慣れな問題を扱う際に、遺漏なく検討、記載できます。

産業医としてまた臨床医としてメンタルヘルス分野を勉強をしたい、また必要であるという認識から、専門医を招いて度々勉強会を開いてきました。また認定産業医の講習会を地区医師会として企画してきました。さらに、遠方の講習会への参加が難しい、忙しい地域の医師の負担を考え、地区医師会の講演会だけで資格更新できるように考慮し、地区医師会主宰の講習会を毎年1回以上開催することを企画しました。

それに加えて最近はメンタルヘルス分野にも力を入れて、診断・治療・連携・職場復帰など内容を網羅して、専門医以外の医師のスキルアップを目指していき、地域の実情にあった講習会内容にすべく努力しており、そのためのプログラム作りなども含め専門医と連携関係を構築する努力をしています。

認定産業医制度は日本医師会が認定する制度であり、地区医師会も関係が深い制度のように考えられがちです。しかし実務としては、新規あるいは更新の手続きをするだけでそのほかに特別なものはありません。時折、地域産業保健センターあるいは労働基準監督署経由で産業の消化を求められることもありますが、稀です。

産業医活動の実態を把握することはなかなか困難で、多くの場合は個人的に依頼を受けてのことです。また長期にわたって引き受けている場合も多く、新規に産業医を選定するような企業は少なくなっています。

このあたりの事情は、やはり長引く不況の影響が大きいといえます。企業努力だけを求めても改善には結びつきません。労働基準監督署に話を訊いても、やはり現場では難しいことが多く、指導しても財政難を盾にして指導に従えないといわれることも多いようです。

健診機関の医師として留意すべき点

コメディカル

欧米スタイルに影響を受けた生活習慣の変化、急増する高齢者人口などにより、糖尿病などの生活習慣病の患者・予備軍が近年増加しています。

糖尿病は有病者数で約900万人、予備軍は約1300万人とこの5年間で約36%も増加しているとともに、脳卒中、虚血性心疾患による死亡者数はそれぞれ年間約13万人と約8万人と推計されています。

生活習慣病は生活の質(QOL)を低下させるだけではなく、年々増加する医療費の大きな要因となっています。生活習慣病は、正しい食生活と適度な運動で予防が可能なため、適切な対策により、有病者・予備軍を減少、さらには生活習慣病に関する医療費を抑制することができると考えられます。

国民会保険を今後も持続可能な制度とするために行われた医療改革において、生活習慣病対策の推進が大きな柱の一つとされ、メタボリックシンドロームに焦点を当てた「特定健診・保健指導」が導入されたことは記憶に新しいところです。

産業保健の分野における健診アルバイトには、職場での健康リスク要因を早期発見するために全社員を対象に行われる「一般健診」と、有害作業に従事する社員に対する「特殊健診」があります。年1回実施される定期健診では肺がんの早期発見を目的とした胸部エックス線撮影、喀痰検査にはじまり、貧血検査(血色素量、赤血球数)、血中脂質(総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)、血糖値、血圧測定、心電図などが行われますが、医師の判断によって省略できる項目もあります。

個人の健康に関する詳細な属性を含んだ健診情報は、取り扱いに際して十分な配慮が必要となります。通常の診療と異なる背景として、単に受診者と施設の関係ではなく、事業所や健康保険組合との関係で検査結果が施設間で移動することがその特徴となります。この場合、受診の契約先との関係を適切に保つため、個人情報の取得、入手経路、保管、開示、研究調査についてポイントを押えておく必要があります。

生活習慣病(脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、高血圧など)を主な対象疾患としている総合健診では、検査結果の判定や事後指導に必要な生活習慣を受診者から入手する必要があります。多くは事前に問診表を配布して必要事項に記入してもらい受診時に回収することが多くなっています。問診表には、情報が健診に関する判定保健指導のために使用されることを記す必要があります。

健康診断は、保健事業における二次予防手段として発展してきており、診療以外に保健事業として事後指導が実施されます。そのため、健診に携わる医師は診療を含めて関連法規について十分な知識を有していることが求められます。