ピロリ菌の除菌による胃・十二指腸潰瘍の治療

強い酸性環境の胃の内部は菌が住むことは不可能と考えられており、長年にわたって「無菌状態」とされていました。しかし、豪州のマーシャルとウオーレンが1982年にヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)が胃に棲息することを発見しました。

発見者のマーシャルはピロリ菌の病原性を証明するために、ピロリ菌を培養した液体を自ら飲んだ話は有名ですが、その後ピロリ菌と消化性潰瘍の再発、難治に関わる機序が次々に解明されました。

潰瘍の再発には体質や生活習慣が関わっているとされていましたが、現在では、潰瘍治療は「ピロリ菌の除菌」が重要となりました。またピロリ菌が、慢性胃炎や胃癌の発生に深く関与していることも判り、ピロリ菌の除菌は「胃の病気の治療法」を大きく変えました。

2000年から胃・十二指腸潰瘍には、健康保険適応で診断、除菌治療が行われています。ピロリ菌の感染の有無は、一般の病院やクリニックで行う胃内視鏡検査や血液検査、呼気テスト等などで判定が可能です。

除菌治療は強力な制酸剤と2種の抗生剤を組み合わせ内服する方法が一般的で、1週間で終了します。これらの治療の普及で、長い間、潰瘍の再発で苦しんできた多くの患者さんが「健康な胃」を取り戻しています。一方、この数年間で、従来の治療法で除菌できないケースが10〜20%存在することも明らかになり除菌不成功の原因解明も進みました。

従来の治療に用いた抗生剤が効きにくいピロリ菌の耐性検査も普及し、耐性菌の再治療に用いる数種類の抗生剤や制酸剤等の適切な組み合わせ方法も確立されました。2007年8月からは、不成功例に対する再治療も健康保険の適応になり、未だ潰瘍で困っている方には朗報となりました。

ヨーグルトや乳酸菌飲料などピロリ菌の抑制効果を謳った商品も宣伝されていますが、ピロリ菌と胃の病気の関連をよく知らない患者は現在でも少なくありません。潰瘍で困っている方は、一般家庭向けの医学雑誌や健康バラエティ番組などで最新の治療法やピロリ菌のことを勉強し、気になる症状のある方は消化器内科などを受診しましょう。